2019年05月01日

霧氷の花に出会った春の山

この4月は月初めに時ならぬ寒波がやって来て、ほころび始めたサクラを驚かせてしまったのだけれど、その後も寒暖の変動が大きく、漸く普通の春に近づいたかと思いきや、月末近くになってまた強烈な寒波に見舞われた。戸隠は本格的な吹雪に見舞われたというし、アルプスでは痛ましい犠牲者を多く出してしまった。春の気配を漂わせていた天候が突然厳冬期に逆戻りするのである。真冬よりもかえって危険と言わざるを得ないだろう。
真冬に逆戻りというのは、何もアルプスのような高山だけのことではない。平地にいるとずいぶん涼しいなぁ、といった程度で済んでしまうが、1,000m程度の標高であってもそれは如実に現われる。先だっての寒波のやってきたちょうどその日に訪れた、近畿の最高峰弥山に至る尾根上にある天女の舞もそうだった。

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ちょうどこの日だけその前後の日と比べて10℃前後も低いという、なにこれ?という谷間のような予報が出ていたから、ある程度の覚悟はしていた。それでも、ヒートテックを着ていこうかいくまいか、随分と悩んだくらいだった。結局寒さに震えるよりはということで、上下とも厚手のヒートテックを身に着けていったのだったが、これが正解だった。ほとんど真冬と同じ出で立ちで歩き通し、1枚脱ごうかと感じるようなこともなく1日を過ごしてしまった。時折を顔を見せる日射しのぬくもりの何と待ち遠しかったことか!
冷えこみだけではなかった。標高は1,500m余り。北向きの尾根上のピークということもあるだろうが、カナビキ尾根の尾根筋を辿るうちに、行く手の山並みがどうも白い。まさかと思いながら行くと、周りの根方に微妙に白いものが付いている。氷状のものだがどう見ても雪の名残である。稜線に出ても足下が完全に白くなることは結局なかったけれど、1,400m付近から上は、見事な霧氷の世界だった。真冬でも条件が良くないとなかなか見られるものではない霧氷に、4月下旬のこの時期に、大峰で遭遇するとは! 1月に明神平や三峰山で出会って以来のまさかの霧氷の応接に茫然とする思いだった。

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歩き出しの熊渡は標高670mほど。見渡す周囲の山はヤマザクラの薄いベールをかぶったようにほんわかとした風情を醸しだし、ちょっと涼しくはあったが春たけなわといった趣だった。林道を遡りさらに山道に入っても、既に花びらを落とし始めたタムシバの白い花が目に付いた。しかし、その後傾斜が増して高度を上げていくにつれ、予想以上に体感温度が下がり、身体が温まるどころではない。幸い下に着込んでいるので寒さを覚えることはなかったものの、ちょうど発熱の分だけ体感温度が下がっていく感じで、微妙な平衡を保ったまま同じ恰好で登り続けることになったのだった。
時折植林が混じるが、葉を落とした自然林に囲まれた優しい登山道が続く。傾斜は結構なものだが気持ちの良い尾根道で、高度を上げるに従って、次第にシャクナゲも顔を出すようになって岩もチラホラ。大峰で普通に見られる景色がここにも現われ、次第に稜線が近づいていることを知らせてくれる。ただ、時折風が通り過ぎ、寒さは募ってゆく。白いものに気付くようになったのは、ちょうどこの辺りからではなかったかと思う
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〔1、白い稜線の遠望〕

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〔2、さらに白さを増す1518mのピーク〕

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〔3、霧氷の峰へ〕
稜線に出てからは右へ尾根筋を取り、1,518mのピークを踏んでその西側の天女の舞へと辿る。霧氷はこのピークの周辺から天女の舞にかけて大きく広がっていた。折しも青空が顔を出し始め、枝々の氷がきらめく。かなり風があり、明神平でも経験したけれど、木々の下を歩くと霧氷の氷が降ってくる。北には神々しいばかりの稲村ヶ岳。ピークから天女の舞、さらにその北西には広場状の展望地が展開し、遠く大和盆地が青く霞んで望まれる。手前の白い冬の額縁の向こうに春の緑の山々、そしてさらに青く霞む盆地の遠景が展開する不思議な光景に魅入られてしまった。
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〔4、頂仙岳に向かう稜線に出る〕

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〔5、天女の舞のある1,518mのピークを目指す〕

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〔6、天女の舞のある1518mのピーク〕

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〔7、天女の舞のある1,518mのピークで〕

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〔8、天女の舞から稲村ヶ岳を望む〕

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〔9霧氷拡大(風が強くてピントが合わない)〕

霧氷に彩られた木々は本当は白いはずなのである。しかし、ぼうっと見惚れていると、木々が付けている氷が淡くピンク色に見えてくるではないか。まるでそこらじゅうのサクラが一斉に満開を迎えているような……。まさに氷の花! こんな光景が現実にあり得るのが信じられない思いだった。
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〔10、霧氷の花開く天女の舞〕

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氷の花々の足下で昼ごはん。風を避けられる場所を探すのに苦労したが、複数の時間を体験しているような不思議な感覚をいつまでも覚えながら、陽のぬくもりを感じながら食べたおにぎりの味は格別だった。
帰路は天女の舞のあるピークの南側を巻く道を辿ってカナビキ尾根の分岐まで戻り、あとは、一部滑りやすい自然林を避けて東へ植林帯の道を辿った部分もあったが、基本は往路を忠実に降る。往路に比べてなんと復路の短く感じられたことか。さっきまで見ていた冬景色がまるで幻か何かだったのではないかと思われたほどだ。
天女の舞のピークを巻く道からは、白い衣をまとった頂仙岳の円錐形の美しい姿が望まれた(このトラヴァース道の右側はかなり切り立った傾斜で、あまり見惚れていると危ないけれど)。いつだったかこの道を頂仙岳まで往復したことがあった。その時既に天女の舞という名まえだけは聞いていたけれど、それがこの道の直ぐ脇にひっそりと佇むこんな別天地であるとは、まだ知る由もなかったのである。
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〔11、霧氷の頂仙岳を望む〕

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〔12、帰路の稲村ヶ岳の遠望〕
ラベル:奈良 季節
posted by あきちゃん at 22:35| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする