2017年06月12日

果てなき峰を訪れる(その1)

なぜ果無などという地名が生まれたのだろうか。行先がわからないくらい延々と続く山々、その先にある集落だからか、はたまたそうした山々の麓にあるからだろうか。麓の果無集落から登り切った鞍部が果無峠、そこから始まる尾根に入った最初のピークが果無山、これを皮切りに西に向けて連なる1000mから1200mの標高をもつ30㎞以上に及ぶ山々を果無山脈と呼んでいる。どれが一番元の地名なのだろうか。果無集落から果無峠までは、高野山と熊野本宮を結ぶ小辺路の一部でもあるから、それとの関係もあるかも知れない。
いずれにせよ見わたす限り山また山に囲まれたところであるには違いない。東には大峰、大台の高峰が連なるものの、それとて2000mに満たない。1000mクラスの似たような山々が延々と広がるという点では、紀伊山地はかなり特異な山塊なのかも知れない。果無山脈はその中でも核心部近くに位置し、しかも紀伊半島では珍しい東西方向に長距離続く山塊である。大台よりはむしろ海からは遠く、潮岬に突き出る紀伊半島最南端の付け根に位置するといってもよいかも知れない。奈良県の最南端、和歌山県境を東西に走るこの果無山脈を訪れた。
そんな立地であるから、果無山脈を縦走するのはなかなか困難である。距離的には健脚なら1日で充分縦走は可能なのだが、なにせ東西両端とも足の便が極端によくない。早朝に発って行ってもギリギリだろう。それも車の利用が前提だが、縦走後にどうやって車を回収するかという大問題に直面する。
となると、あとは前日というか、1日めは十津川温泉泊まりでゆっくり身体を癒やし、2日め早立ちして縦走して西端の龍神村丹生ノ川に泊まり、3日めに帰途に就くという、2泊3日がかりというのが最も現実的な選択肢であろう。とはいえ、起点の十津川温泉までが八木からバスで4時間なのはまだしもで、終点の丹生ノ川からの足はどうなのだろうか。

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前置き長くなったが、そんな僻遠の地にある山に、今回はバスで連れて行っていただく幸運に恵まれた。果無山脈には稜線からほど遠からぬ所に林道が通っていて、丹生ノ川と本宮を結んでいる。しかも最高峰冷水山(ひやみずやま)の直下から、冷水山に登る道が開かれている。今回はこれをフル活用して、1日めは西へ安堵山、和田の森を経て丹生ノ川へ、2日めは東へブナの森、石地力山を経て果無峠へ下って十津川へ、という分割コースで縦走を果たそうというものである。
往路は高野龍神スカイラインを利用して護摩壇山からの眺望を楽しむという贅沢なバスツアー付きで、冷水山下からの歩き出しは12時半。地図上ではわけなく見える冷水山への道は、のっけから急登でゆっくり登って30分、急にあたりが眩しく感じられるようになったと思ったら、そこは冷水山の好展望に恵まれた山頂だった。
低木と一部遮られる部分があるが、ほぼ360度と言ってよい南北両側の展望を堪能する。さっき立ち寄って来た護摩壇山のタワーが遥かな彼方に指差せる。ここで遅めの昼食を取ったら、西へ今日の縦走をスタート。心地よい木漏れ日に溢れた明るい自然林の幅の広い尾根道である。かわいらしいカサコソいうブナの葉が主体なのだろう。落葉もどこか大峰や大台とは雰囲気が違うような気がする。こういう道は何も考えずにただ歩けばよい。それだけで心の底まで洗われる思いがする。空気が乾燥しているのか、6月の梅雨前とは思えない爽やかさである。
冷水山の山頂.jpg
〔冷水山の山頂〕

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黒尾山を過ぎ、自然林の尾根道を充分堪能した頃、道は一旦先程登って来た林道に下りる。林道というにはもったいないほどの整備の行き届いた舗装道である。やや興醒めの感なきにしもあらずだが、まだ自然林の余韻が残っているせいか、さほど気にならずにいたが、どうもここで尾根道が途切れてしまっているのは北側から上がって来る別の林道があるからのようで、暫くはこれを歩かされることになる。
やがて道は林道から離れ、静かな尾根筋を行くことになり、まもなく樹林に覆われた安堵山に着く。あまり特徴はないが名前の通り、ホッとする小ピークである。このあと、尾根道は再び林道に出たり入ったりを繰り返しながら、林道と付かず離れずしながら辿るうち、尾根道に接した林道の北側が広く伐採された箇所に飛び出した。ひょいと林道に出て壮大な展望を満喫する。
右手奥には見慣れた釈迦ガ岳の鋭峰が鎮座し、左へ八経、弥山へと続く奥駈道がくっきりと望める。正面に大きいのは、牛廻山の山塊だろう。その向こうに展開するのは、伯母子峠、三浦峠を越えて高野山へと向かう小辺路の山並みということになろうか。左手奥には、この日周知となった護摩壇山のタワーが識別できる。稜線北側の大展望.jpg
〔稜線北側の大展望。一番奥が大峰の山塊〕
このあたりはこれまであまり馴染みのなかった山域だが、その広がりとマッシブな存在感にはただただ圧倒されるばかりで、いつまで見ていても見飽きるということがない。そしてそれを南でしっかりと受け止めているのが今立っているこの果無の山々なのである。よくぞまあここまでという思いを強くする。紀伊山地の南北の奥行きと東西の幅への認識を新たにする。

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ここからは軽快な尾根道歩きが続いたはずだが、あまり記憶が定かでない。好天と好展望に恵まれた山旅をもう充分満喫してしまったからか心は軽いのだが、足、ことに太腿のあたりが張って、ちょっと疲れを感じる。静寂な和田の森も1100mの標高があって、ここからの最後の下りは結構きつかった。明日の行程を思いやりながら、小森の集落を経て、ヤマセミの郷に着く。コテージ泊まりで、山行きの泊まりとしては贅沢の極みと言ってよい。ヤマセミ温泉で今日の汗を流し、冷えたビールで喉を潤しながら山の仲間の皆さんとつつく鍋は何者にも代え難き絶品であった。21時過ぎ就寝。(その2につづく)
和田の森.jpg
〔和田の森〕
芽生えたばかりのギンリョウソウ.jpg
〔稜線で見かけた芽生えたばかりのギンリョウソウ。ギンリョウソウはあちこちで見かけた。中でも、ほんとうにまだ土から顔を出したばかりのギンリョウソウは、まるで白い豆粒をばらまいたようで、一瞬何かわからなかった(写真を撮り損ねたのは残念)〕
タグ:季節 奈良
posted by あきちゃん at 01:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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