2019年05月23日

南鈴鹿の双耳峰仙ヶ岳に登る

10連休の1日、南鈴鹿の仙ヶ岳を訪れた。昨年、北の宮指路岳から、続いて南の鬼ヶ牙・臼杵岳から相次いで望んだ双耳峰である。いずれも特に仙ヶ岳を意識して登った訣ではなかったのだけれど、期せずして両側からその印象的な姿を心に刻んだことで、いつか是非という思いが募ってきて、訪れるべくしてという感じの山行となった。今回はちょうど連休中ということもあって、家内だけでなく、大阪の長女と京都の二女の予定も合わせて、4人で出かけることにした。
仙ヶ岳は、北側からの深い緑の森と、南側からの巨岩を林立させた荒々しい岩山と、対照的な異なる2つの顔をもつ。各方面からヴァリエーションに富んだ登路があるのも特徴だ。今回はそのうち南側からの正面ルートを辿った。一番登りがいのある、仙ヶ岳のよさが最もよく味わえる道筋といってよい。
起点は、石水渓の入口の、第二名神の陸橋の下に位置する仙ヶ岳登山口である。ここまでは鬼ヶ牙に登ったときと同じ道筋で奈良から1時間半ほど。ここから右手の林道に入り、茶畑の間を抜けさらに遡ると、堰堤のそばに僅かだが駐車スペースがある。
林道は荒れてきているから注意を要する旨案内書には書いてあったが、案の定何ヵ所か心配になる箇所があった。道の片側が雨水の浸食を受けて大きく抉れ、土嚢を並べて段差を少なくしてくれてはあるものの、車のおなかを擦りそうになるのである。かといって道路脇に駐める余裕のあるところもなく、前進あるのみという訣で、覚悟を決めて進むことにする。
極力スピードを落としつつ、左右に道を見極めながら進めば、幸いさしたる支障もなく駐車スペースまで行き着くことができた。9時半を少し回った頃で、既に3台(乗用車2台と軽トラック1台)の先客があり、その間に駐めさせていただく(あと1台は駐車できるだろう)。

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ここから落石で車は通行不能の林道をのんびり歩き、林道終点から谷筋の山道を僅かに辿れば、合わせて小一時間ほどで南尾根コースと白谷道コースの分岐に着く。どちら回りにするのがよいか、出かける前から少し悩んだが(山と渓谷社の『三重県の山』は南尾根コース、西内正弘さんの鈴鹿案内─『地図で歩く鈴鹿の山ハイキング100選』・『鈴鹿の山ハイキング21世紀の山歩き』いずれも中日新聞社刊─や福井正身さんの『鈴鹿の山(中南部編)18山』は白谷道コースを登りに用いている)、どうせ登るなら見晴らしを楽しみながら登りたいと考え、今回は南尾根を登って白谷道を降る左回りのルートを取ることにした。
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〔1南尾根コース(左)と白谷道コース(右)の分岐〕

南尾根コースといっても、滝谷不動の手前の尾根に出るまでは、流れを何回か渡り返しながらイタハシ谷と呼ばれる谷筋を登り詰めていくことになる。道はうまく付けられているが、折角の高巻きの道の桟橋が危険な状態になっているということで、谷を直接詰めるように道筋をロープを貼って指示してある場所もあった。
沢を詰めるに従って傾斜も増し、ここがこんなに急であるとは思ってもいなかった急傾斜の源頭をジグザグによじ登れば、漸く南尾根の鞍部に出る。振り返るとよくこんな所を詰めてきたなと、ここを降りに使わなくてよかったとつくづく思う、そんな感慨の湧くほどの傾斜だった。
右手へ滝谷不動へは僅かの登り。東向きのお不動さんの脇からさらに鉄ハシゴを登れば、石仏が3体祀られた展望のよい大岩の所に出る。ひととき展望を楽しんだら、まだ先は長いので名残は惜しいが先を急ぎ、鞍部まで戻って、南尾根に取りかかることにする。
初っ端からロープの下がった岩が立ちはだかり、どうなることかと思わされたが、手掛かり足掛かりは結構あって、案外どうということもなく登れた。しかし、こうした岩をまじえたアップダウンがずっと続く。
そのうちに次第に展望が得られるようになって道が右に回り込む辺りからは、いよいよ南尾根の核心部となる。ここから仙ヶ岳東峰の仙ノ岩に出るまでは、それぞれに個性的な岩場をもつピークをいくつも越える。大きなピークが4つあるというのは事前に案内書で確かめていたけれど、ここまでにもたくさんそれらしいところがあったので、もういくつかは過ぎているのかと思っていたが、どうもこの曲がってから先が本物のピークの連続であるようだ。
まだ結構な比高はあるし、折角登ったピークの向こう側にはそれを顕著なピークにしているたいがいの落ち込みがあるから、相当なアルバイトを強いられる。けれど、快晴の青空のもと、抜群の展望に伴われつつ登る足取りは軽い。それぞれのピークはみな眺望に恵まれ、景色を楽しみながら登れるので、結構な時間を要してはいるのだけれど、滝谷不動までの源頭のガレを詰める苦しさに比べると、はるかに気分的に楽である。展望に恵まれた、しかもツツジの花に彩られた一級の尾根歩きといってよいだろう。
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〔2南尾根から見る野登山〕

なお、どれがP1からP4に当たるかは、多分そうだろうなといいのはあっても、登っていくとどれもいっぱしのピークに思えて、どこからP4を数え始めるかが難しい。それで、P1を除くと、逆コースを辿ってみないと厳密な照合は難しかった。
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〔3南尾根から見る御所平〕

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〔4南尾根を行く〕

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〔5南尾根を行く2〕

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〔6南尾根からの眺望〕

双耳峰に辿り着く一つ手前のピークP1はもう東峰の仙ノ岩が見えているから、同定が容易だ。このピーク巻いて行ってしまうように道はつけられているが、僅かに左に戻ればピークを極められるので、折角なので踏んでいくことにした。これは大正解で、南から東にかけての眺望では山頂に劣らぬものがあったし、北の展望も開けて、360度の大展望を楽しめる。
中でも、御在所岳と鎌ヶ岳の、あの去年宮指路岳から見て印象に残っている姿は感動ものだった。それだけではない。去年は霞んでいてあまりはっきり見えなかった御池岳が、雨乞岳との間に明瞭にその姿を現わしていた。南尾根を降らない人でも、ここまではたいした距離ではないから、山頂から足を延ばしてみる価値は充分にあるだろう。
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〔7P1から仙ヶ岳東峰を見る〕

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〔8P1から吊尾根越しに鈴鹿北部を望む〕

このP1からは仙ノ岩まではもうあとひとがんばり。仙ノ岩がもう目の前に見えているので、さらに足取りも軽くなる。仙ノ岩は、絶妙のバランスと聞いていたが、思いのほかどっしりと安定した感じがした。写真を撮ってもなかなか大きさのイメージが湧きにくい。かといって人を入れても岩の陰でかつ逆光なるため、あまりぱっとした写真にはならない。あっけらかんとした風貌が印象的な山頂だ。
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〔9仙ノ岩〕

ここまでに出会った登山者は5人に満たなかったが、仙ノ岩の前では西峰からやって来て野登山方面へ向かうらしい一団とすれ違った。しかし、仙ノ岩から少し東に辿った辺りで遅めの昼食を取っている間は、誰にも会わずじまいの静寂の仙ヶ岳東峰だった。元々昼食は西峰でと考えていたが、南尾根の登りにやはり思っていた以上の時間を要してしまったようで、腹ごしらえを先にすることにした。
タケノコごはんと、今回はお湯持参でカップ麺付きである。最近のカップ麺は優秀で、地上で食べるのとほとんど変わらぬ味を山の上でも賞味できる。多少がさばるのと湯を運び上げる重ささえ厭わなければ、思っていたよりも随分ずっとよい。がさばらないので小型サイズが便利だが、寒い季節には冷めやすいという難点もある。あと、帰途に空いた入れ物からつゆがこぼれると始末が悪いので、袋の準備は必要だ。ラップを剥いてからリュックに詰め込んでくればなおよい。

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さて、西峰に向かって出発。気持ち良い吊尾根である。降り始めてすぐ、左に白谷道を示す分岐があったが、ちょっと早過ぎる。一応ここまで戻ってくることも頭に入れておく。双耳峰の鞍部から西峰の登りにかかると、再び今まで隠れていた北側の展望が開け始めた。おなじみの御在所と鎌ヶ岳、それに去年登った宮指路岳とそこに続く犬返しの険を通る稜線は至近の間である。
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〔10南尾根を振り返る〕

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〔11吊尾根から鈴鹿北部の眺望〕

西峰の山頂には少しだが疎林があって、一度に360度という訣にはいかないけれど、少し工夫をすればなんとか一周ぐるりと見渡せる。それに山麓の鬼ヶ牙付近では新緑が燃えるようだったが、1,000m近い山頂の自然林はまだ芽吹き始めたばかりで、木々がそれほど景色の障害にはならないのである。
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〔12西峰から東峰を振り返る〕

振り返ると、さっき踏んできた東峰から登路の南尾根にかけての景色も雄大だった。越えてきた石の堆積のピークの連なりを見ていると、よくぞここまでという気にさせてくれる。また、不思議なのは、まるでモアイのように直立した石が、稜線から谷に向かっていく筋も列をなして並んでいる姿だ。森林帯の中で丸い石がゴロゴロと谷状に堆積しているところはよく見かけるが、こんな石の衝立のようなのは見たことがない。思わず稜線の石から順にドミノ倒しのようなことをしたら面白かろうなどと思ってしまう。
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〔13南尾根と伊勢平野〕

南鈴鹿の山々も逆光ながら美しく望めた。仙ヶ岳から続く御所平、前回出かけた臼杵岳から、三子山、四方草山、鈴鹿峠を越えて、高畑山から溝干山、那須ヶ原山、油日岳へと至る、けっして高くはないが手強そうで長大な尾根。いつかまた出かけてみたい。
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〔14西峰から高畑山・那須ヶ原山・油日岳を望む〕

見飽きぬ景色だが、思った以上に登りに時間を取ってしまったので、日の長い季節とはいえ先を急がなければならない。最初に見た入口よりもだいぶん西峰に近いところにも白谷道を示す道標があり、ここから降り始める。いきなり急降下である。まもなく左から谷が合わさる。ここには仙ヶ岳は左への指示があり、登る際には今左から合わさってきた右の谷へは入らないように誘導しているようだ。吊尾根で最初に見た入口はあるいはこの右谷を降るものだったのかも知れない。
白谷道は迷うようなところではないが、丸い石の堆積した歩きにくい源頭で、明瞭な道がある訣ではなく、よく注意していないと足を取られそうになる。谷筋自体はほぼまっすぐ結構な傾斜で降ってゆくので、所々にロープの設備もある。
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〔15白谷道を降る〕

やがて水音が聞こえるようになり、谷らしくなって、時に高巻きあり、沢沿いの道ありで、流れを左に右に何度も渡り返しながら降るようになる。これを登りに使わなくてよかったと思いながら降ったせいもあってか、この降りは気分的に随分長かった。初めは白谷道の名の通り白く明るい谷だったが、水音が聞こえる頃からはジメジメとした谷らしい感じが増し、陽も傾き始めてだんだん暗くなって来た。この辺りが一番辛かった。
そのうち急に谷が明るさを取り戻しやや開け明るい感じになってきた。何だろうと思っていると、その先にまさかこんな山奥にと思うような見たこともない高さの堰堤が築かれていて、そこを左岸から巻いて急降下するようになっていた。先程の明るい広場状の開けた部分は、どうもこの堰堤を築いたお蔭で堆積した土砂がもたらした平地だったらしい。
御所平方面からの谷を合わせたあと、谷は左にカーヴして次第に深さを増して行く。相変わらず徒渉を繰り返すが、高巻きの道が崩れたせいであろうか、一旦鉄梯子で河原に降り、その先で再び鉄梯子で高巻き道に登り返す不思議な場所もあった。梯子の下部が固定されていないため、ここは一人だったら結構気を使うだろう。岩棚状の狭い道を鎖を伝って通過するような所もあったがさほどのこともなく、まもなく営林署の倒壊した古い建物の残骸を見ると、ようやく今朝通った分岐に辿り着く。
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〔16梯子を降りて登って〕


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ここからは結構長い林道を歩いて駐車地まで戻る。駐めてある車が遙か彼方に見える場所もあって、思わず歓声が上がる。結局休憩も含めると8時間近い長丁場となったが、好天に恵まれた今日の山行の足取りを確かめるように降る道行きは軽やかだった。
滝谷の登りでもう帰りたいを連発していた下の娘も、それなりに充実感を味わってくれているようだった。なにせ彼女は、明日は家族で山歩きだと言ったら、大学院の仲間たちからお菓子の餞別をさえもらってきているのである。それなりに山歩きをしている友人も仙ヶ岳と聞いて、すぐにはわからなかったらしい。ことほどさようにマイナーな山ではあるのであるが、山の真価が名が通っているかどうかとは無関係であるのは、今日のこの満足感を思えば明らかだ。
今回は南尾根を登る左回りコースを取ったが、白谷道も登れば登ったで、素晴らしいコースではあるには違いない。下りに使ったのでは、白谷道の本当の良さはわからないのかも知れない。一方、南尾根は、下りでも展望に優れているから、登りでも降りでも飽きるということはないだろう。そう考えると、白谷道を登りに使う右回りコースを紹介している西内さんの案内も一理あるように思えてくる。もうこうなると、是非逆回りでもう一度訪れてみなければなるまい。往復してみて初めて道の真価はわかるようにも思う。ただ、おなかを擦らないように気を使って登るあの林道はあまり通過したくないな、とは思うけれど。
帰路茶畑の広がる夕暮れ迫る林道脇に車を駐めて振り返ると、仙ヶ岳へと辿った南尾根をきれいに望むことができた。暫く車を駐めていたが、通行する車もない。山頂から眺めたとき、この茶畑らしきものをハッキリと見ることができたので、下からも見えるはずだと思ったのを思い出し、車から降りて振り返ってみて正解だった。
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〔17仙ヶ岳を振り返る〕
ラベル:季節 鈴鹿
posted by あきちゃん at 22:07| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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