2019年06月09日

昇天節のカンタータBWV37の聴き比べ

一昨日の雨は結構な降りで、てっきり近畿も梅雨入りしたのかと思っていたら、今回の雨で梅雨入りが発表されたのは、東海から東北南部までで、近畿以西、九州までは梅雨入りの発表はまだなのだという。確かに昨日・今日と爽やかなというか、むしろ涼しいくらいの天候で、梅雨でないといえばいえないこともないけれど、もう梅雨入りしたといっても誰も反論できない、そんな陽気だ。
要は梅雨入りに絶対的な基準があるわけではなく、気象庁の担当者がどこまで厳密に判断するか、というところもあるように思う。晴れているのに今日から梅雨とは宣言しにくい訣で、低気圧の通過は梅雨入りを発表するには絶好のタイミングなのである。だから、その先暫くまとまった雨が降るような気配はなくても、このタイミング逃すと梅雨入りの発表ができそうもないというような年は、まださほど明瞭な雨期という感じはないままに、さっさと梅雨入りを発表してしまうこともかつてはあったように思う。場合によっては、遡っていついつ頃から梅雨に入っていたと考えられる、なんていうことを後出しで発表したこともあったと記憶している。
ところが昨今の何事も客観性、正確性が重んじられるご時世、梅雨入りを発表したあとに雨が降らなければ何事かと怒られ、発表前にジメジメした天候が少しでも続くようだと、判断が甘いと誹られる。しかし、相手は自然なのである。サクラの開花と違って見てわかるという訣ではないから、そんなに厳密に今日から梅雨と線を引けるはずはないのである。梅雨入りの発表が多少早かろうが遅かろうが、もうそろそろ梅雨の季節であることは誰もが承知している訣で、もう少しおおらかに考えられないものか、と思う。あまりにギスギスし過ぎていて、これでは気象庁の担当者も胃がキリキリ痛むのではあるまいか。もっとも、近畿の梅雨入りが東海・関東・東北南部よりも遅いといってこんな事を書いているぼく自身が、昨今の風潮に読されているといわわれてしまえばそれまでなのであるが。

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さて、時だけは容赦ないスピードで流れていく。ついこの間6月に入ったと思ったら、もう明日は時の記念日である。せめて季節の推移に身を任せていきたいと思うのだが、それを味わう余裕のないままに、暦の推移を容赦なく実感させられる日々が続いている。
季節のカンタータを聴く方も、ついつい置いてけぼりを喰らいがちで、あ、これはと言う曲があっても、じっくり聴くまもなくあとへあとへと遠離ってゆく。
そんななか、久し振りにいろんな演奏を聴き比べる機会をもてた曲がある。昇天節のためのカンタータBWV37「信じて洗礼を受ける者は」である。今年の昇天節は教会暦の巡りが遅いので5月30日だったが、1724年5月18日に初演された曲である。作曲以来295年を迎える曲である。
小規模ながらこの季節にぴったりの爽やかな曲である。大合唱、テノールのアリア、ソプラノとアルトの二重唱アリア、バスのレティタティーボ、バスのアリア、コラールの6曲からなり、大合唱、独唱アリア、二重唱アリア、コラール、レティタティーボというように曲の形式を必要最小限に網羅し、しかも四声それぞれにアリアの見せ場をもつコンパクトな曲。
第2曲のオブリガートが失われてしまったのが惜しまれる。普通には、アリアの旋律に基づいて復元されたヴァイオリンのオブリガートで演奏されるが、バッハはどんな楽器のどんなオブリガートを付けていたのだろうか? どこかからパート譜なり見つからないものなのだろうか?
ガーディナーの2種類の演奏、鈴木雅明BCJ 、ビラー 、リリング、アーノンクール
の6種類を聴いた。

第1曲 大合唱
ガーディナー 2′24″
快速、リズミカルに突き進む、ガーディナーらしい颯爽とした切れ味のよい演奏。心地よさが際立つ。あっという間に終わってしまい名残惜しさが半端ではない。合唱は録音が近いせいか分離がよく、特にソプラノがクリア。
ガーディナー(旧) 2′19″
基本は後年のカンタータ巡礼とそっくりの快速な演奏で、むしろ速いくらいだが、もう少しまろやかな肌触りがある。広がりを感じるやや遠めの録音のせいか、かえって合唱の一体感がすばらしく、大きな起伏のある響きが魅力的だ。
鈴木雅明BCJ 2′24″
ガーディナーと全く同タイムながら、合唱のテイストの違いなのか、さほどの速さを感じさせないしっとり感のある演奏。
ビラー 2′58″
のびやかに歌う厚みを感じる豊かな少年合唱が印象的な演奏。リズムのはっきりした律儀なヴァイオリンと対照的で、遅さが印象付けられる。
リリング 3′00″
音を引きずる感じがあるためか、タイムほどの遅さは感じない。じっくり慈しむように噛みしめるように進む。広がりのある包容感のある音楽。
アーノンクール 2′38″
ガーディナーや鈴木雅明BCJほど速くなく中庸な感じで、いつものアーノンクールの意外さはない。ボーイソプラノのゆったりとした語りかけが美しい。

第2曲 テノールのアリア
ガーディナー 5′40″
ヴァイオリンの軽やかなオブリガートを伴いながら、やや癖のある感じのテノールが、粘らずにサラサラと歌う。不思議な簡素な静謐さがある。そんなに遅い印象はないのにタイムが最も遅いのはどうしてか。
ガーディナー(旧) 5′36″
第2曲もカンタータ巡礼よりはやや速めの演奏。広がりのある空間にヴァイオリンとテノールが飛翔していく感じなのが印象的。なお。ヴァイオリンのオブリガートに少し音が加わっていて、ほかの演奏とは異なる印象がある。
鈴木雅明BCJ 5′32″
オブリガートはやや控えめだが雄弁。通奏低音が心地よく響き続ける。アットホームな感じの温かさを感じる。
ビラー 5′22″
控えめだがリズミックなヴァイオリンのオブリガートに乗って、テノールが美しく語りかけながら駈け抜ける爽やかな演奏。だんだんテンポが上がっていく感じだが、最後はテンポを落として静かに終わる。
リリング 5′13″
遅い大合唱から一転、チェンバロに乗って、テノールがリズミカルに歌う。ヴァイオリンのオブリガートがしっとりと美しい。
アーノンクール 5′27″
ヴァイオリンのオブリガートには、他の演奏にはない装飾的な音が加えられている。テンポは中庸、テノールも穏やかで、時折聞こえるオルガンの響きも美しい。

第3曲 ソプラノとアルトのアリア
ガーディナー 2′39″
第1曲に続き再び快速でリズミカルなガーディナーらしい演奏。ソプラノのきっぱりとした声質と歌い方が印象的で、快速なテンポと相まって、ハッとするような音楽を奏でてゆく。
ガーディナー(旧) 2′35″
これもカンタータ巡礼と同じテイスト。ソプラノとアルト(カンタータ巡礼と違いカウンターテナーが歌う)の二重唱が美しい。曲としての一体感、まろやかさという点はカンタータ巡礼より勝るように思う。
鈴木雅明BCJ 3′00″
しっとりとした低音が印象的。ソプラノののびやかで澄んだ響きが印象的。アルト(カウンターテナー)との掛け合いが美しく、天上の音楽の感がある。
ビラー 3′22″
ゆったりとしたテンポの少年合唱の掛け合いがユニーク。低弦が明確にリズムを刻むこともあって、清澄さよりはやや重さを感じる印象がある。
リリング 3′10″
抑え気味の低弦をバックに、ソプラノとアルトが華やかな二重唱を繰り広げる。
アーノンクール 3′08″
ボーイソプラノが光る。アルトとの掛け合いが美しい、夢見るようなアリア。

第4曲 バスのレティタティーボ
ガーディナー 0′53″
引き続き速めで厳しいレティタティーボ。
ガーディナー(旧) 0′54″
テンポ感はカンタータ巡礼と同じだが、他の曲と同様に、先鋭感が少なくまろやかで優しい。終わり方などに特にそれを感じる。
鈴木雅明BCJ 1′00″
一転緊張感を孕んだ音楽が展開。そのままアリアに進む。
ビラー 1′02″
ゆっくりめのテンポでバスが静かに語りかける。
リリング 1′05″
テンポを落とし、バスが静かにかつ力強く語りかける。
アーノンクール 0′51″
バスが速めのテンポで雄弁に語りかける。

第5曲 バスのアリア
ガーディナー 2′39″
第4曲の気分をそのまま受け継ぐ速めのアリアで劇的な印象を残す厳しい音楽。
ガーディナー(旧) 2′49″
基本はカンタータ巡礼と同じだが、録音がやや遠いせいもあろうが、もう少しまろやかで、しっとりとした落ち着きがある。
鈴木雅明BCJ 2′34″
かなり速いがしっとりとした落ち着きがあり、劇的な緊迫感はあまりない。バスの丁寧な語りかけが心に残る。
ビラー 2′59″
第4曲の気分をそのままに、バスが抑え気味に静かにしっとりと穏やかに歌う。
リリング 2′43″
チェンバロに乗ったバスが、速めのテンポで歌う。その語り口のうまさに引き込まれてしまう。
アーノンクール 3′02″
第4曲のレティタティーポと対照的に、ややテンポを落とし気味のバスが、じっくりとかつ淡々と歌う。

第6曲 コラール
ガーディナー 1′09″
最後まで快速で突き進む終曲。時折聞こえるチェンバロの響きも美しい。
ガーディナー(旧) 1′12″
合唱の分厚い響きが美しい。快速だが包容力のある優しさを感じる。
鈴木雅明BCJ 1′20″
聞いた印象はずいぶん速く、ガーディナーよりも速い。第5曲の流れそのままである。転調の余韻を残したまま静かに終わる。美しいコラール。末尾の20秒ほどは余白で、実際には0′59″ほどで終わっている。
ビラー 1′10″
少年合唱の分厚い響きが圧倒的な印象を残しながら、曲を締め括る。
リリング 1′14″
豊かな合唱がたゆたいながら詠嘆を交えながら、静かにゆっくりと全曲を締め括る。
アーノンクール 1′25″
少年合唱が慈しむようにしっとりと奏でる、心にしみるコラール。

昇天節の関係の曲には、あの名曲昇天節オラトリオBWV11があり、冒頭のトランペットの輝かしい昂揚感のある旋律を聴くと、気分の落ち込んでいるときにも勇気を与えられる。ロ短調ミサに転用された曲もあり、全体としてまだ特別の曲という思いがある。まだまだ聴き比べには時間がかかりそうだ。その代わりというのは勿体ない話だが、コンパクト聴きやすいBWV37を取り上げてみた訣である。ただ、小さいのは曲の規模だけで、その感動は圧倒的である。BWV11に勝るとも劣らない名曲であるのは間違いないと思う。
posted by あきちゃん at 21:12| Comment(0) | 日記 | 更新情報をチェックする
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